今回は、理論系(特に計算物質科学系)の論文の読み方を紹介します。
論文を読む前に
論文を読む前に、まず自分の研究分野や研究テーマに関する勉強をする必要があると思います。
その際に、自分の研究分野の専門用語や基本事項を学びます。
この基礎勉強により、論文が読み易くなると思います。
論文の構成
基礎勉強が終わると、指導教員から読むべき論文を渡されることが多いと思います。
理論系(特に計算物質科学系)の論文は、おおよそ次のような構成になっています。
- 論文のタイトル
- 要旨 (Abstract)
- 序論 (Introduction)
- 理論・方法 (Theory, Methods)
- 結果・考察 (Results, Discussion)
- 結論 (Conclusion)
- 引用文献 (References)
そして、各構成要素の簡単な内容は次のようになります。
論文のタイトル | 研究内容が伝わるようなキーワードを含むその論文の題名 |
---|---|
要旨 | 研究の背景、目的、内容、結果、アピールポイントなどを短く説明したもの |
序論 |
|
理論・方法 |
|
結果・考察 |
|
結論 |
|
引用文献 | 論文中で引用された論文や書籍などが羅列される |
計算物質科学系で新しい理論や計算法を開発する研究をされる方は、やはり「理論の章」を重点的に読むことになると思います。
論文の英語のレベル
理論系の論文の英文は、難しくないと思います。
シンプルな構文で論理的に(一義的に)書かれており、文学的な表現や難解な英語構文が出て来ることはほぼないです。
なお、英語構文が苦手な方は、薬袋善郎先生の英語教材がお薦めです。
また、英単語のレベルも基本的には英検2級ぐらいのレベルです(専門用語は除く)。
ただ、私の印象になりますが、アメリカやイギリスの(上位)大学から出る論文では、英検1級や準1級レベルの高級な英単語が比較的頻繁に出て来ることもあります。
論文には各分野ごとによく出て来る言い回しがあるので、まずはそれを学んでしまうのが良いと思います。
物質科学系の論文に頻出する基本表現をまとめた参考書としては、
河本 修・C. アレクサンダー,Jr.『実用的な英語科学論文の作成法』朝倉書店 (2004)
がお薦めです。
その他、自分でも論文中のうまい英語表現をWordテキストなどに収集しておくと、論文を書く際に役立ちます。
理論系の論文は手を使って読む
理論系の論文は、目で英文や数式を読んでも、理解できないことが多いです。
つまり、論文中の数式をきちんと理解するには、手を使って読む必要があります。
私は、論文をしっかりと読む場合は、理論の章をWordテキストに書き写しながら読みます。
英文の部分はコピーしてWordテキストに貼り付けるだけですが、数式の部分はMathTypeというソフトを使ってWordテキストに書き写します。
面倒だと思われるかもしれませんが、このように書き写すことによって、内容が理解できて来ることが多いです。
しかし、書き写しただけでは「論文中の数式がどのように導出されたのか」が分からないことが多いです。
そこで、書き写した後に、そのWordテキスト中に自分で導出を補うことになります。
自分で直ぐに導出できない場合には、引用論文や関連論文、又は関連書籍を調べて、導出するためのヒントを集めて行きます。
最終的には、ヒントを使いながら、自分で導出過程を考え出すことになります。もちろん、他の方に手伝ってもらっても大丈夫です。
論文を読むことに不慣れだった頃の私
全訳
論文を読むことに慣れていなかった頃の私は、序論と理論の部分をWordテキストに全訳していたと思います。
確かに、論文は日本語に訳さない方が良いと思いますが、読むことに不慣れな頃は、目で読んでいても頭に内容が残りにくいこともあると思いますので、全訳しても良いと私は思います。
理論系の論文では、表現パターンがかなり決まっているので、慣れてくれば全訳しなても良くなります。
さらに慣れて来ると、序論、結果・考察、結論の部分(つまり数式以外の部分)では、気になった部分をマーカーで強調するだけで事足りるようになって来ます。
読むのにかかる時間
理論系の論文は、数式の部分があるので、ある程度時間をかけて読むことになると思います。
理論の章以外の部分は、慣れて来ると次第に速く読めるようになると思います。
慣れるまでは読むのに時間がかかるかもしれませんが、ほとんどの方がそうなので気にする必要はないと思います。
論文の印刷
不慣れな頃の私は、PDFの論文を印刷していました。そして、印刷された紙の論文に書き込みなどをしていました。
慣れて来ると、PDFのままパソコン上で読めるようになります。覚えていない英単語も簡単に調べられるので、便利です。
私は、現在では特に書き込みはしません。重要だと思う箇所をPDFのマーカー機能で色付けするくらいです。
自分で論文を書く際は、そのマーカー部分を中心に「そのテーマに関して読んで来た論文たち」を再チェックします。
論文を読み慣れている人はどう読んでいるか
研究分野によっても論文の読み方は異なると思いますが、読み慣れている人はどのように論文を読んでいるのか紹介したいと思います。
まず、読み慣れている人は、論文の全てを読んでいないと思います。
つまり、自分の読みたい部分だけ読んでいると思います。
これは長い研究経験により、色々な背景知識をもっていたり、その分野の動きや傾向を知っていることで自然に可能になります。
次に、読み慣れている人は、
- まず、タイトルを読んで、その論文をクリックするか決め、
- 次に、自分が知りたい部分(数式、表、図など)を見て、読むかどうか決めている
と思います。
そして、
- 精読したい場合は、要旨から順々に読んで行く(全部読む訳ではないことも)
- 精読しない場合は、要旨や結論から読み、後は表や図を中心に気になった部分を読んでいる
と思います。
さらに、読み慣れている人は、論文を批判的に読んでいる、又は1つ1つチェックしながら読んでいます。
確かに、理論系の論文でも、結構な割合で間違えが含まれています。実際に、数式の部分に重大な誤りがあることもあります。ただ、意図的な間違えではないので問題にはなりません。
余談:論文中の数式の誤りについて
ちなみに、学術雑誌に投稿された論文は、その分野の研究者による審査(査読)を受けますが、私の分野では、論文中の数式が本当に正しいかどうかはチェックされないことが多いと思います。
ゆえに、数式が間違っていることもあります。
「何のための審査なのだ!」と思われるかもしれませんが、ほとんどの審査では、提案された理論や計算法の「論理の流れ」みたいなものしかチェックされません。これは査読者のレベルや審査時間に限りがあるためかもしれません。
また、論文中の数式の簡単な誤りは、その論文を書いた研究者によるものではないこともあります。
つまり、論文の原稿(自由形式)が出版のために各雑誌の論文形式に書き直される際に、雑誌社の方によって誤りがもたらされることがあります。
ゆえに、論文の著者は、自分の論文が出版される前に、自分の論文の最終版(proof)を念入りにチェックする必要があります(特に数式の部分を)。