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おすすめ参考書

大学生向け大学数学のお薦め参考書

今回は、大学生向け大学数学のお薦め参考書を紹介します。

序文

大学数学の性質

まず、大学1年生の方が大学の数学を勉強する上で注意すべきことは、次のことです:

「数学科の大学数学の勉強」と「数学科以外の大学数学の勉強」は少し違う。

数学科の方は、数学理論を自分で構築できるようになるために(又は厳密な数学的議論ができるようになるために)、数学の本格的基礎から学ぶことになると思います。

一方、数学科以外の学科では、数学を自然現象や社会現象の記述法として利用することが多いので、数学科のように数学の厳密な論証法を学ぶ必要性はあまりないと思います。

つまり、「数学科の方が読むべき大学数学の本」と「数学科以外の方が読むべき大学数学の本」は少し違ってくると思います。

この記事では、研究者の視点から、数学科以外の方にお薦めする大学数学の本を紹介します。

勉強のポイント

ちなみに、勉強する際のポイントは、次のようになります。

  • 公式の暗記よりも証明の論理や内容の理解を重視する.
  • 用語や概念を頭に定着させるために基本的問題のみ解く(難しい問題はやらない).

大学での勉強は、暗記よりも「どこに何が書いてあるかを知ること」や「証明や内容の論理」を重視した方が良いと思います。

できれば体系的理解を目指したいところですが、自分の専門以外の科目については時間の関係上難しいかもしれません。

ただ、知識を取り出す方法さえ覚えておけば、細かいことは忘れても大丈夫だと思います。

微分積分のお薦め参考書

微分積分のお薦め参考書は、次のようになります。

  1. 石井俊全『1冊でマスター 大学の微分積分』技術評論社
  2. 和達三樹『微分積分 (理工系の数学入門コース 1)』岩波書店
  3. 田島一郎『解析入門』岩波書店
  4. 宮島静雄『微分積分学I』及び『微分積分学II』共立出版
  5. 高木貞治『定本 解析概論』岩波書店

1)と2)をノートに書き写しながら読めば十分だと思います。

3)~5)は厳密な微分積分を学びたい人向けです。時間に余裕がある方は読んでみても良いと思います。

ちなみに、計算物理学の研究では、多重積分の計算がよく出て来るのですが、解析的に計算できない積分ばかりです。ゆえに、数値積分の勉強の方が重要になります。

線形代数のお薦め参考書

線形代数のお薦め参考書は、次のようになります。

  1. 石井俊全『1冊でマスター 大学の線形代数』技術評論社

大学1年生の方は「線形代数が何の役に立つのか」が分からないと思います。私もそうでした。

しかし、量子力学の応用計算をするようになると(例えば、分子中の電子のエネルギーを計算するようになると)、エルミート行列の固有値や固有ベクトルを求める必要が出て来るので、線形代数の重要性が理解できます。

さらに言うと、分子中の電子の状態を記述する波動関数は、行列式で表されます。ゆえに、行列式の定義や行列式の性質を理解することはとても重要になります。

研究の段階になると、手計算で線形代数の問題を解くことはあまりないと思います。線形代数の問題は計算プログラムを使って計算機に計算させることになると思うので、手計算を頑張る必要はないかもしれません。

とにかく計算物理学の研究では線形代数の計算はよく出て来ます。例えば、固有値問題、連立1次方程式、逆行列の計算、行列式の計算、行列積の計算などです。

確率論・統計学の参考書

研究に役立ちそうな確率論・統計学の参考書は、次のようになります。

  1. 石井俊全『1冊でマスター 大学の統計学』技術評論社
  2. 筑波大学 稲垣敏之教授の確率論講義(YouTubeへのリンク
  3. A. コルモゴロフら『コルモゴロフの確率論入門』森北出版
  4. 熊谷隆『確率論』共立出版
  5. 長澤正雄『シュレーディンガーのジレンマと夢』森北出版
  6. 保江邦夫『Excelで学ぶ量子力学』講談社
  7. 長澤正雄『増補改訂版 マルコフ過程論による新しい量子理論』創英社

1)は定理の証明が丁寧に書かれおり良かったのですが、私には肝心な用語の意味や肝心な概念の説明が分かりにくく感じました。

2)は分かり易い講義でした。ただ、やはり私には釈然としない箇所がありました。測度論に基づく本格的な確率論を学ばないと、釈然としない部分は解決できないのかもしれません。

3)と4)はまだ読んでいません。

5)は確率過程論を用いて量子力学の諸問題を考え直す内容となっていて面白いです。分かり易く読み易いと思います。

6)も確率過程論の視点から電子の動きを量子力学的に計算をします。

7)は確率過程論を理解した人が研究で使う本だと思います。面白そうなので購入しましたが、ぱらぱらと眺めるだけで本格的には読んでいません。

群論の参考書

物理系の研究に役立ちそうな群論の参考書は、次のようになります。

  1. 石井俊全『ガロア理論の頂を踏む』ベレ出版
  2. 藤永茂・成田進『化学や物理のための やさしい群論入門』岩波書店
  3. 犬井・田辺・小野寺『応用群論(増補版)』裳華房
  4. 高木秀夫『量子論に基づく無機化学(増補改訂版)』名古屋大学出版会

計算機の能力が低かった時代は、群論の知識を使って、時間のかかる複雑な計算をすることなしに、「ある対称性をもつ分子」の振動状態や電子状態に関する定性的な結果を得ていたようです。

しかし、現在では、逆にややこしい群論の知識なしに、計算機の力で「あらゆる対称性をもつ分子」の様々な性質を計算してしまうことが多いです。

ただ、現在でも群論の知識が役立つ厄介な計算があり、群論の知識によりその計算量を大幅に減らすことができます。

(例えば、回転群のウィグナー-エッカートの定理は現在でも論文によく出て来ます。)

と言う訳で、私もそこそこ勉強はしていますが、研究に使うにはまだ理解が足りていません。

4)はまだ読んでいません。

集合・位相の参考書

数学科以外の人が数学の理解を深めるのに役立ちそうな集合・位相の参考書は、次のようになります。

  1. 小針晛宏『すべての人に数学を』日本評論社
  2. 藤田博司『「集合と位相」をなぜ学ぶのか』技術評論社
  3. 大田春外『はじめよう位相空間』日本評論社

1)と2)を読みました。数学科以外の人が大学数学の基礎的部分を知るには良い本だと思います。ただ、私には分かりにくいと感じる箇所が多々ありました。

3)はまだ読んでいません。