今回は、惑星科学(地球と生命の科学)の本を読んで、生命システムの本質を探究してみたいと思います。
地球システムと生命システム
惑星科学の視点から見た生命の起源は、松井孝典(著)『地球外生命を探る 生命は何処でどのように生まれたのか』(山と渓谷社,2022)に分かり易く書かれています。
本記事では、この本を参考にしています。
その本によると、生命の起源とその進化には、環境が非常に重要な役割を果たしており、生命と環境は一体化していると考えられるそうです。
つまり、生命の起源とその進化を解明にするには、地球というシステムについても十分に検討する必要があると言うことになります。
地球は生命ではありませんが、地球には生命と同様に物質や熱の流れがあり、地球上の全ての出来事は絡(から)み合っているそうです。
まるで生命のような地球の流れや変動が、生命とその進化の大元(おおもと)であると捉えられるようです。
その本では、地球システム、つまり地球の形成や地殻変動などの仕組みについて、極めて明確に説明されています。
一方で、生命システムの起源や仕組みついては、不明確な説明も少なくないです。
この明確さの違いは、地球システムが主に重力に支配されている一方で、生命システム(特に細胞)は電磁気力に支配されることに因(よ)るようです。
つまり、重力による動きや流れは、複雑にはならず比較的単純なのですが、電磁気力による動きや流れは、ミクロの世界(=極小世界)で起こり複雑であると言うことになるのだと思います。
人間より大きなスケールで起こる自然現象は理解し易いのですが、ミクロなスケールで起こる自然現象は、人間には理解し難い部分が多いと言うことかもしれません。
マクロの世界では、重いから水中に沈んで行くと言うような単純な理解ができますが、ミクロの世界では、重力はほぼ無視できるため、そのような直感的な・日常的な理解が難しいです。
原子や分子がなぜ生命というシステムを作ることになったのか、恐らくは原子や分子の電磁気力的な安定性が関わっているのだとは思いますが、重力によるマクロな世界に生きる人間には今一つ理解が難しいです。
なお、物理学によれば、この宇宙には、4つの力(=重力、電磁気力、強い力、弱い力)しか存在しないそうです。
なお、強い力と弱い力は、核力とも呼ばれ、原子核の形成や変化に関わる力です。
流れがあれば熱力学の法則に背かない
生命の起源を解明する上で、その本では、生命における「流れ」に注目しています。
その本によると、従来からある地球生命の定義は、次のようになります。
- 自然淘汰を通じて進化する能力を持つこと。
- 生命体が境界を持つ物理的存在であること。
- 生き物は化学的、物理的、情報的な機械であること。
しかし、その本では「生きている」という状態から生命を定義することが重要ではないかと提言します。
「生きている」状態とは、物質やエネルギーの流れがある状態と言うことになります。
従来の定義でも、上記の(3)が「代謝」を意味しており、つまりは、物質やエネルギーの流れを意味しています。
ただ、その本では、「代謝」とは、沢山の化学反応をまとめたもの(エネルギーの変換)で、流れとは別物と考えているようです。
生命における流れとは、周囲の環境から物質やエネルギーを取り込み、それらを変換した上で生命活動に利用し、余った老廃物を周囲に排出するという流れです。
この流れがあるために、生命は、熱力学第二法則に背くような、秩序立ったシステムを自発的に確立できたそうです。
熱力学第二法則とは、自然現象は秩序立った状態から無秩序な状態に向かうと言うものです。
つまり、生命だけを見ると、その内部は秩序立っているので第二法則に背くのですが、環境との物質やエネルギーのやり取りまで考慮すると、外部により多くの無秩序を生み出しているので第二法則に背いていないと言うことのようです。
なお、「生命内部の秩序化」と「外部環境の無秩序化」を隔(へだ)てる物が、膜(境界)と言うことになります。
まとめると、生命内部の秩序を維持するには、外部からの且(か)つ外部への物質やエネルギーの流れが必要と言うことになります。
管理者がいないシステム
生命の内部では、おびただしい数の化学反応が起こっているそうです。
にもかかわらず、それらの化学反応は、秩序立っており、無駄がありません。
つまり、生命は、物体ではなく、自発的な化学プロセスであるとも言えるそうです。
その自発的化学プロセスには、もちろん管理者や命令役のような存在はいません。
DNAが全ての情報源であり、生命の設計図ではあるのですが、制御役なのかと言われれば、違うような気がします。
生命の内部は、自発的に組織化されていると言えると思います。
その組織化は、電磁気力や分子間力が支配していると言うことなのだと思います。
分子間力とは、分子内に電荷(⊕と⊖)の偏りがある分子同士に働く電気的な力です。
例えば、水分子=H2Oは電荷の偏りがあり、水素結合(=分子間力の一つ)により、たくさんの水分子同士でゆるく繋(つな)がっています。
そう考えると、電磁気力が作り出すシステムは、非常に巧(たく)みです。
さらに、その本によると、生命は、電気勾配(=膜を挟んだ電荷の差)を用いてエネルギーを生産し、逆に、エネルギーを使って電気勾配を生み出しているそうです。
やはり、生命は、電磁気力が支配的に作り出しているシステムなのだと思います。
流れがあれば構造が生まれる
その本によると、絶えずエネルギーの流れがあり、平衡状態にない環境では、動的な秩序構造が生まれるそうです。
そして、その秩序構造は散逸構造(さんいつこうぞう)と呼ばれるそうです。
つまり、生命は、散逸構造という仕組みを利用して誕生したのではないかと言うことになります。
言い換えれば、生命が、代謝という流れの構造を作り出したのではなく、何らかの流れが先にあって、その流れを利用して生命が生まれたのではないかと言うことのようです。
例えば、台風や竜巻は散逸構造であると考えられていますが、生命ではありません。
しかし、原子や分子のミクロの世界で、電子の流れがあれば、生命のような物になる場合もあるのかもしれません。なぜなら、ミクロの世界は、重力ではなく、電磁気力が支配しているからです。
重力は、基本的には引力だけで、物と物を互いに引き寄せます。
一方、電磁気力は、⊕と⊖の引力だけではなく、⊕と⊕の斥力(せきりょく)つまり反発する力も持っています。
この引力と斥力という2つの作用が、重力よりも複雑な自然現象を生み出すのだと思います。
つまり、電磁気力は、引力で分子たちを集めるだけでなく、斥力によって集まった分子たちに秩序を与えることもできるのかもしれません。
その本によれば、海中のアルカリ熱水噴出孔で最初の生命が誕生したと考えられるそうです。
アルカリ熱水噴出孔には、豊富な電子の流れがあり、つまり活発な化学反応を可能にする構造があり、生命を構成するのに必要な有機物を巧みに合成および供給し続けることができる仕組みが整っているそうです。
さらに、アルカリ熱水噴出孔をもつ惑星では、微生物が誕生している可能性が高いとのことです。
つまり、地球以外の惑星にも、生命(微生物)がいると予想されるそうです。
ちなみに、その本によると、アルカリ熱水噴出孔での「生命誕生のプロセス」は次のようになるようです。
- 生命が必須とする小型の有機分子が作れて、溜まる。
- それらの小型分子が繋がって、タンパク質や核酸のような大型分子になる。
- 周囲の環境とは異なる、区画化された「分子の袋」に大型分子が取り込まれる。
- 分子袋の内部では、袋の外では起こらない特殊な化学反応も進む。
- 膜内(袋内部)で、大型の複雑な分子を複製するシステムが確立される。
ステップ2が、通常の自然環境では困難であるようですが、アルカリ熱水噴出孔には、天然のプロトン勾配があるため、色々な化学反応が進み、さらに、アルカリ熱水噴出孔の細孔だらけの構造が、ヌクレオチドなどの有機物の濃縮を可能にするそうです。
なお、自然は、沢山ある物を利用する傾向があるようです。
システムがシステムを生み出す
その本によると、全ての細胞は、細胞から分裂して生じるそうです。
生命が誕生する前の、生命に成りかけている物は、何からの外的要因によって、ちぎれてしまったり、ちぎれた物が偶然再びくつっいたりすることを繰り返す内に、複製や分裂という機能を長い時間をかけて得たのかもしれません。
話が変わりますが、生命が誕生する前の地球は、
- コア
- マントル
- 地殻(大陸地殻、海洋地殻)
- 海
- 大気
で構成されていたようです。
そして、それぞれの構成要素が、絡(から)み合って、地球を一つのシステムとして構成していたそうです。
例えば、海を維持するためには大陸(=大陸地殻)が必要であるそうです。さらに、大陸には、生命の素材となる養分を供給する役割もあるそうです。
なお、ここでシステムとは、構成要素間で物質や熱のやり取りがあることを意味します。
また、これらの構成要素には、必ず対流運動があるそうです。
この対流運動が地球システムにおける物質の循環を生み出しているそうです。
地球の表層(大気や海)における対流運動の駆動力は、太陽からの入射エネルギー(つまりは太陽光や太陽の熱)であるそうです。
生命は、地球の熱や物質の流れが原因となり、電磁気力によって生み出された新たなシステムであると捉えることもできます。
地球の流れのシステムから、上手く分裂・独立した流れのシステムが、生命なのかもしれません。
台風や竜巻も、地球が生み出すシステム(散逸構造)ですが、膜がないために、秩序と無秩序の関係性を上手く維持し続けることができないのかもしれません。
膜を形成するには、電磁気力のような力が必要なのかもしれません。
なお、その本によると、安定した環境の下では、基本的にはほとんど進化は起こらないそうです。環境が変わることによって進化が起こるそうです。
生物進化における特異点
その本によると、生物の進化において、偶然性が絡んだ特記すべき進化的イベントは、次のようなものであるそうです。
- 酸素発生型光合成生物(シアノバクテリア)の誕生
- 真核生物の誕生
- 多細胞生物の誕生
- ホモ属の誕生
- ホモ・サピエンスの誕生
- 意識の誕生
この宇宙に意識が誕生したというイベントは、やはり特別なことのようです。
つまり、宇宙を認識できる生物が現れたことにより、宇宙は単なる背景ではなく、認識対象や探究の対象となり、生物が宇宙進出を本格化させる契機になるのかもしれません。
また、意識の誕生は、自然以外に4つの力(=重力、電磁気力、強い力、弱い力)を使いこなす存在が誕生したことも意味していると思います。
一方で、意識は、科学的に記述することが今のところ難しいとされています。
意識は、物質ではないのですが、客観的な自然現象という訳でもないようです。
意識で意識を捉えるのは難しいと言うことかもしれません。
なお、単純な生物ほど進化に時間がかかるそうです。
ゼロから1を作り出すのが、一番難しく、103から104を作るのは比較的容易と言うことだと思います。
おまけ:人間の本質を探る
その本によると、人間の環境変化に対する適応能力を支えているは、次の4つの能力であるそうです。
- 並外れたコミュニケーション能力
- 協力する能力
- 思考する能力
- 発明する能力
主の適応能力と合わせて、実に興味深い5つの能力です。陰陽五行の考え方とも一致していると思います。
もう一つの興味深い発見は、何らかの引力で人が集まるようになると、その集団内部には斥力が働くようになり、秩序が生まれると言うのものです。
この現象は、生命システムとも関連する電磁気力的な現象に由来するのかもしれません。
電磁気力がもつ引力(アメ?)と斥力(ムチ?)には、分子たちを秩序立てるだけではなく、間接的には分子たちが形作る物を進化させる作用もあるのかもしません。
また、その本を読んで、繋がりを理解すると言うことも大切だと思いました。
繋がりを理解していないと、肝心な時に適切な判断ができないのかもしれません。
ただ、繋がり(ストーリー)が悪用されることもあるようなので、繋がりには注意が必要なのかもしれません。
人間の集団における繋がりや連携は、水分子たちの水素結合に対応する様なものなのかもしれません。
なお、水素結合は、比較的弱い分子間力ですが、背の高い植物が、水を根から葉に引っ張り上げるのに使われているそうです。