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映画・アニメ

理系研究者が『TV版エヴァンゲリオン』を見直して思ったこと

今回は『TV版新世紀エヴァンゲリオン』を見直して思ったことや考えたことを書きます。

エヴァとは何だっかのか?

エヴァに出てくる謎について

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下『シンエヴァ』)が3月8日に公開されるとのことで、『TV版エヴァ』を10年以上ぶりに見直してみました。

すると、エヴァに対して色々と私は勘違いしていることに気が付きました。

『TV版エヴァ』を最初に見たのは10代の頃なので、当然かもしれませんが、何も分かっていなかったと思います。

見直してみて、最初に思ったことは、エヴァという世界が、物凄く現実的に、細部まで緻密に作り込まれていることです。

庵野監督の強いこだわりを感じますし、色々なことを勉強されたことが伝わってきます。

私は理系研究者なので、エヴァに出てるく科学的部分に興味が向かいますが、生物工学、次世代コンピューター、量子物理学、機械工学、都市工学などを幅広く勉強していないと描けない場面やセリフがたくさん出て来ます。

また、エヴァに出てるく科学者は、実際の研究者に近い雰囲気をもっています。

この緻密に作り込まれた「エヴァという世界」を改めてきちんと認識して、エヴァというアニメは初めから「謎解き」のためのアニメでないことを理解しました。

つまり、10代の私は「エヴァに出てくる謎がどのように解明・説明されて行くのか」に強い興味があり、謎解きばかり追っかけていたのですが、

『TV版エヴァ』を見直してみて、謎が丁寧に解かれることはないと悟りました。

言い換えれば、謎よりも、もっと見るべきところを見てと訴えている気がしました。

恐らく、庵野監督にとって、謎は「エヴァという世界」を作り上げるための要素でしかないのです。つまり、解くための謎ではなく、視聴者を「エヴァという世界」に引き込むための謎なのだと思います。

ただ、エヴァの考察・解説サイトなどで調べてから『シンエヴァ』まで見ると、多くの謎は一応解明されるようです。

エヴァで「言いたいこと」は何か?

それでは、庵野監督はエヴァという作品で何を伝えたかったのでしょうか。

「エヴァに乗る少年少女の苦悩と成長」がこの作品のテーマでしょうか。

確かに、主人公のシンジは父親に関する悩みや他者との関わり方に関する悩みをもっています。また、アスカは母親に関する悩みや自分のプライドに関わる悩みをもっています。

この悩みがどのように解決されて行くのかを視聴者は楽しめば良いのでしょうか。

『TV版』、『旧劇場版』、『新劇場版(序、破、Q)』は既に見ましたが、確かに、シンジやアスカが苦悩・葛藤している場面はよく出てきます。

そして、『破』では、使徒との戦いを通じて、シンジ、アスカ、レイに心の成長や変化が見られます。

しかし、『TV版』や『新・旧劇場版』では、大きな心の成長や悩みの解決がきちんと描かれている感じはしません。

ただ、『シンエヴァ』では心の成長や悩みの解決がきちんと描かれているようです。

人類補完計画とは何だったのか?

少年少女の心の成長というのは、「エヴァという世界」を作り出さなくても描けるものだと思いますが、「エヴァの世界」には、あらゆる悩みの解決法として人類補完計画というものが出て来ます。

人類補完計画とは、不完全な人間を1つにして完全な生命体に人口進化させる計画です。

この人類補完計画を阻止することも、エヴァという物語の大きなテーマの1つだと思います。

他者との関わり方に関する悩みをもつシンジにとって(庵野監督にとって)、この計画を阻止する理由がなかなか見出せなかったようです。

つまり、人類補完計画は他者との関わり方に関する悩みをもつ者によって提案された計画であり、同じ悩みをもつシンジが強く否定することは、「エヴァという小さい世界」では難しいのかもしれません。

強く否定する理由を見出すには、「エヴァという世界」を壊し、一から作り直す必要があるのかもしれませんが、強いこだわりをもって調和のとれた美しい「エヴァという世界」を築き上げた庵野監督にとってそれは容易なことではなかったのかもしれません。

庵野監督とは

エヴァという作品に興味をもち、「謎ができる限り科学的に説明されること」や「できる限り科学的な結末」を待ち望んでいた私は、自ずと庵野監督についても興味をもつようになっていました。

六星占術による分析

木星人の性格

まず、庵野監督を六星占術で占ってみたところ、庵野監督は木星人(+)でした。

木星人(+)を特徴付けるキーワードとしては、以下のものが挙げられているようです:

家族を大切にする、家庭的、管理が好き、生まじめ、頑固、努力家、優等生タイプ、偽善者、攻撃的になりやすい、勝気な性格、負けず嫌い、自尊心が強い、ひと言多い、敵を作りやすい、大胆、大雑把、保守的、堅実な性格、サポートがうまい裏方タイプ、大器晩成型、度胸がある、忍耐強い、我慢強い、精神的にタフ、体力がある、責任感が強い、信頼感がある、几帳面、ストレスをため込む、感情より理性を重んじる、冷静沈着、常識人、モテる、浮気はしない、家庭第一主義者、家事全般が得意、子ぼんのう、妻を大切にする、子宝に恵まれやすい、人づき合いが苦手、人と話すことがやや苦手、口下手、相手の気持ちを汲み取るのが苦手、不器用な性格、冒険や変化を好まない、控えめで物静か、親の跡継ぎに向く、社交性に欠ける、内向的、目立つ存在ではない、根が暗い、元々は凡人が多い、面白味がない、承認欲求が強い、組織での自分の存在価値を気にする、母親との縁が薄い、才能に恵まれている訳ではない。

エヴァのキャラクター(シンジ、アスカ、レイなど)には庵野監督の人格が反映されていると言われていますが、確かに上記のキーワードの幾つかを各キャラクターに振り分けることができる気もします。

例えば、次のような感じです。

シンジ 家事全般が得意、生まじめ、頑固、几帳面、内向的、承認欲求が強い、母親との縁が薄い
アスカ 攻撃的になりやすい、勝気な性格、負けず嫌い、自尊心が強い、組織での自分の存在価値を気にする、母親との縁が薄い
レイ 控えめで物静か、忍耐強い、責任感が強い
ゲンドウ 不器用な性格、人づき合いが苦手、口下手、相手の気持ちを汲み取るのが苦手、妻を大切にする

また、レイが肉を食べないのは、庵野監督が肉を食べないからかもしれません。

なお、ケンスケは、夢中になっている対象が少し違いますが、庵野監督の中学・高校時代の姿を部分的に反映させた人物であると私は推測します。

均整のとれた世界

そして、『TV版エヴァ』や『旧劇エヴァ』では、大雑把に言えば、庵野監督の人格を反映した木星人タイプのキャラクターしか出て来ない気がします。

ミサトは明るく行動力があるので金星人タイプに近いかもしれませんが。

実際に、ある記事で宮崎駿監督は「自分の知っている人間以外は嫌いだ、いなくてよいという、だから画面に出さないっていう」という言葉で『TV版エヴァ』に言及しています。

しかし、『破』では、新タイプのキャラクターが出て来ます。それはマリです。

マリも木星人タイプだと思いますが(判断理由:大胆だから。サポートがうまい優等生タイプだから)、これまでのキャラクターとは違う垢抜けた雰囲気があります。

木星人タイプのキャラクターを中心に絶妙な調和をとって来た「エヴァの世界」に初めて異なるタイプの人物マリが現れました。私は庵野監督の決断に強い成長を感じざるを得ませんでした。

なお、木星人の人が『エヴァ』を見ると、共感できるところが多いと思います。一方、木星人以外の人が『エヴァ』を見ると、共感できないところ(又は理解できないところ)が少なくないかもしれません。

例えば、「逃げちゃダメだ」というセリフも責任感の強い木星人には響くのかもしれませんが、あまり響かない人もいると思います。

さらに余談ですが、庵野監督は、次節で紹介する特性により、典型的な木星人とは異なるところが少なくないと私は感じています。

脳機能の特徴による分析

最近日本でも、世の中には特殊な脳機能をもった人達がいることがテレビで紹介・説明されるようになりました。

著名な科学者の中にも、特殊な脳機能をもっていただろうと予想される人物がいて、アインシュタイン、ダーウィン、エジソン、ダ・ヴィンチなどが挙げられています。

このような特殊な脳機能をもった人達は、いくつかのグループに分類され、あるグループの人達は以下の特徴をもつことが多いようです(個人差大):

こだわりが強い、興味に偏りがある、得意・不得意の凸凹がある、自分のルールがある、気に入ったことを繰り返す、日常生活がパターン化し易い、かなりのマイペース、融通が利かない、集中しすぎる、感覚過敏がある、感覚鈍麻がある、偏食、球技が苦手、姿勢が悪い、曖昧な指示が苦手、場の空気を読むことが苦手、相手の気持ちを考えることが苦手、協調性がない、集団行動が苦手、非常識、会話が一方的、難しい言葉を好む、マルチタスクが苦手、他者に興味がない、一人でいることを好む、視線を合わせない、生きづらさを感じ易い、自己肯定感が低くなり易い、IQが高い、記憶力が高い、無表情など。

なお、特殊な脳機能をもった人達の上記の特徴は先天的なものなので、改善したい場合は困難が伴うことが多いようです。

さらに、M. フィッツジェラルド博士によると、次のような傾向もあるようです。

上記の特徴がある画家は 対象物を単に描くだけではなく、対象物に入り込み、その対象物になりきってしまう.
上記の特徴がある作家は 自伝的要素が強い文学作品を書く.
上記の特徴がある人は うつ病になり易い.

私の粗雑な調査では、庵野監督にも上記の特徴が幾つか当てはまるところがあります。

ただ、誰にでも幾つかは当てはまるところがあるので、それだけで特殊な脳機能をもっていると判断することはできません。

また、特殊な脳機能をもった人でも上記の特徴全てが当てはまる訳ではないので、専門家の判断が重要になります。(さらに、著しくは上記の特徴を示さないグレーゾーンと呼ばれる方々もいらっしゃるようです。)

いずれにしても、庵野監督を理解する上で、「興味に偏りがある」という特徴は重要だと思います。

実際に、庵野監督のwebページには、高校時代のエピソードとして「各種試験の結果は8点から98点までと好き嫌いによって振幅が激しく、学校からは問題児とされる」とあります。

また、アニメーター時代にも偏りがあったようで、ロボットアニメの爆発シーンやSFアニメの戦闘・ロケット発射シーン、心理描写は得意であったようですが、人物を描くことは苦手であったようです。

庵野監督のこの得意・不得意の凸凹が、人類補完計画の発想へと繋がったのかもしれません。つまり、得意な部分をみんなで合わせれば、より完璧なモノが作れるという考えがあったのかもしれません。

ただ、庵野監督は「欠けているもの」に愛おしさを感じているようです(『プロフェッショナル 仕事の流儀』より)。

完璧なモノに対する憧れがあるものの、現実はそうではないので、葛藤や不平等感のようなものが庵野監督には強く存在するのかもしれません。

なお、カヲルによれば、ATフィールドは人間ならば誰しもが持つ「心の壁」であるとのことですが、上記の特徴がある人達は他者との間に壁を作り易い(自閉的になり易い)ので、ATフィールドという考え方に共感し易いようです。

『TV版エヴァ』はどう作られたのか?

庵野監督にとって面白いモノを作った

それでは次に、『TV版エヴァ』がどのようにして作られたのかを考えることで、「庵野監督が『TV版エヴァ』で何をしたかったのか」を考えてみたいと思います。

『TV版エヴァ』がどのようにして作られたのかは、『庵野秀明 スキゾ・エヴァンゲリオン』という本に書いてありますが、ここでは私個人の視点で推論してみたいと思います。

『TV版エヴァ』の最後の2話が、変わった終わり方であり、『旧劇エヴァ』でその2話が作り直されたことからも、エヴァは明確な結末が決まっていた訳ではないことがうかがえます。

つまり、エヴァという物語の全体図を設計してから、『TV版エヴァ』というアニメを制作して行った訳ではないということです。

言い換えれば、アニメを制作しながら、結末を考えて行ったということになります。

逆に、例えば、海外ドラマの『24』は、恐らく、物語の全体図を設計してから、細かな部分(脚本など)を作って行ったのだと思います。ゆえに、きれいに伏線が回収され、物語の謎はきっちり解明されます。

アニメを制作しながら結末を考えることの何がマズいのかと言うと、謎解き要素が含まれている場合は特にそうだと思いますが、つじつまが合わなくなることだと思います。

つまり、きれいに伏線が回収できなくなるなどの不都合が生じたり、ストーリーが不自然になる可能性が高いです。

(ただ、創造的仕事や独創的仕事においては、最初から詳細な設計図を作ろうとしない方が良いのかもしれません。)

一方で、庵野監督がエヴァでやりたかったことは、「エヴァという物語の結末を語ることではない」という推測もできると思います。

庵野監督が『ウルトラマン』や『ガンダム』に強い興味があったことと、爆発・戦闘シーンや心理描写が得意であったことから推測されるように、庵野監督が興味のあることや得意なことをエヴァでやりたかったのだと思います。

つまり、当初は、特別な物語のテーマや伝えたいメッセージがあった訳ではないと思います。

逆に言えば、庵野監督の興味のあることや得意なこと(及び他者や組織に対して感じていること)をやるための作品が『TV版エヴァ』であったと言えるかもしれません。

しかしながら、恐らく普通は、個人の好きなことをやっただけの作品は、あまり評価されないことが多いと思いますが、

庵野監督の「知能の高さ」や「徹底的にのめり込む特性」(つまり「現実感を持たせること」や「登場人物に自己投影すること」、「アニメーターとしての才能・技術」など)が功を奏したのだと思います。

『TV版エヴァ』における興味の偏り

当初から想定されていた部分、つまり、『ウルトラマン』のように、敵が来て、戦って倒すことを繰り返す部分は、最高の仕上がりだったと思います。

さらに、登場人物たちの心理描写や謎解き要素なども入り、視聴者を素晴らしいサービスで楽しませてくれたと思います。結果として、100点満点中120点は取っていたと思います。

一方、謎の解明や物語の結末の部分は、100点満点中8点というような感じになってしまった気もします。

(「8点」と言うのは比喩的表現で、先の120点に比べると大きな差があるように感じられることを表しています。実際に私が8点だと思った訳ではありません。)

多くの視聴者は、「繰り返し部分」で120点取っていたので、当然、「謎・結末の部分」でも高得点を取れると期待していたと思います。

しかし、恐らく真相は、「謎・結末の部分」が低得点なので、「繰り返し部分」で120点取れたと言うべきかもしれません。

つまり、庵野監督の得意な部分(又は興味のある部分)は高得点なのですが、苦手な部分(又は納得できていない部分)は低得点なのです。

あれだけの現実感ある世界や世界観を構築・創造したのですから、この現象は当然と言えば当然かもしれませんが、庵野監督の性(さが)にも関係があるかもしれません。

しかしながら、ファンの期待に応えて、『シンエヴァ』では庵野監督の苦手な部分もうまく仕上げたようです。まさに「逃げちゃダメだ」精神とでも言うべき素晴らしい仕事ぶりだと思います。

なお、庵野監督の『ふしぎの海のナディア』では「謎・結末の部分」もうまく出来ていたと私は思うので、必ずしも「謎・結末の部分」が苦手という訳ではないと思います。

庵野監督にとって、エヴァは思い入れが強く、フィクションではなく現実感あるもの(本物)にしたかったようです。