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科学

脳科学による創造性が生まれる仕組み

今回は、脳科学の本を読んで、「創造性が生まれる仕組み」について考えてみたいと思います。

矛盾する脳

「創造性が生まれる仕組み」の脳科学的な説明は、大黒達也(著)『AI時代に「自分の才能を伸ばす」ということ』(朝日新聞出版, 2021)に分かり易く書かれています。

本記事では、この本を参考にしています。

人間の脳は、不確実なこと、例えば、突然の雷や地震などに対して、不安を抱き易いそうです。

そのため、脳には、無意識の内に「物事の起こり易さ」を把握する機能が備わっているそうです。

つまり、脳は、不確実なことの「起こり易さ」を普段から観察かつ分析することで、パターンの様なものを見つけ出しているようです。

そして、その結果として、脳内にある不確実性が減り、脳は安心感を得ているようです。

確かに、不確実な事にいつもまでも身構える訳にもいきません。

一方で、人間の脳は、確実性の高いこと、例えば、太陽が昇ると明るくなり、沈むと暗くなるなどに対しては、当たり前になってしまい、特に気に留めなくなるそうです。

つまり、確実性の高いことに、人間は「飽き」を感じるそうです。

面白いことに、人間の脳は、「飽きた」状態になると、つまらなさを感じ、自ら不確実なものに触れるようになるそうです。

つまり、「飽きた」状態になると、少し冒険してでも、新しい物を求めるようになるようです。

ちなみに、人間の脳は、知らなかった事を知った瞬間に大きな喜びを感じるそうです。

詰まる所、人間の脳は、外界からの刺激が強過ぎても、逆に弱過ぎても駄目なようです。

このように、人間の脳には、次の相反する2つの欲求が存在しているそうです。

  • 外界からの刺激を「避けたい」と言う欲求(=確実性を上げたい)
  • 外界からの刺激を「受けたい」と言う欲求(=確実性を下げたい)

その本によると、創造性は、このような脳内での、一見したところ、矛盾する(二項対立する)2つの「働き」から生まれるそうです。

そして、創造性には、脳内にある「確実性を上げる働き」と「確実性を下げる働き」のコラボレーション(共同作業)が関わっているそうです。

つまり、その2つの「働き」の「ゆらぎ(=行ったり来たりのサイクル)が、創造性にとっては重要な役割を果たしているようです。

収束的思考と拡散的思考

創造性が生まれる仕組みを説明するには、「確実性」という言葉がキーになるようですが(その本では「不確実性」という言葉で統一されています)、この言葉は抽象的なので、もう少しイメージし易い言葉を使うことになるようです。

その言葉が、「収束的思考」と「拡散的思考」になります。

その本によると、

収束的思考とは、ある問題に対して唯一の最適解を追求する思考です。

拡散的思考とは、できるだけ多くの様々なアイディアを出して認識を広げる思考です。

そして、

収束的思考は、「確実性を上げる=不確実性を下げる」働きに関係していて、

拡散的思考は、「確実性を下げる=不確実性を上げる」働きに関係しています。

その本によると、脳には、収束的思考と拡散的思考という相反する2つの思考が表裏一体で存在し、競合しながらも、共創している(共に作用し合っている)そうです。

脳内で生じている不確実性に対して、両思考が競合や共創を繰り返すサイクルの中で、脳内の不確実性に「ゆらぎ」が生まれるそうです。

この「ゆらぎ」が創造性の源であるそうです。

よく知られている言い方で、この創造性を説明するならば、次のように言えるかもしれません。

ある問題に対して、直感的思考(=拡散的思考)で、解決への方向性を見出し、その方向性に従って、具体的に細かな「つじつま」を論理的思考(=収束的思考)で検討して行く、

後はその繰り返しで、直感的思考と論理的思考のサイクルで解決に近付いて行く、と言うことになるのだと思います。

ただ、直感的思考=拡散的思考ではないのだと思います。

拡散的思考は、あくまでも、認識の拡張(認識のインフレーション)にその本質があると思います。

つまり、メタ的な視点(俯瞰的な視点)や多角的な視点に立って物を考えることも、拡散的思考には含まれているような気がします。

直感的思考は、全経験に基づく直感的な予想(センス)と言った感じだと思います。

論理的思考と収束的思考は、やや似ているのかもしれません。

収束的思考と拡散的思考をバランスよく使い、生かし合うことが創造性には大切であるそうです。

どちらか一方の思考のみでは、創造性が高い物は生み出されないそうです。

拡散的思考から収束的思考に移行することで良いアイディアが形となるそうです。

余談:哲学と脳科学

ちなみに、哲学(構造主義)によれば、人間は、「善と悪」のような二項対立的な概念を用いて、思考を展開して行く・結び付けて行くようですが、脳科学的にもその考えが支持されたと言うことになるのでしょうか。

恐らくは、支持されたことにはならないと思います。

むしろ、脳科学的な説明が、哲学(構造主義)の考え方通りになっていると言うことかもしれません。

なぜなら、「創造性」と言うものを、二項対立的な概念である「拡散的思考」と「収束的思考」で説明しているからです。

閃(ひらめ)くには

収束的思考と拡散的思考のバランスやサイクルが大切であることは、理解できました。

それでは、拡散的思考の大元になる「アイディアを出したり」「閃(ひらめ)いたり」するには、どうすれば良いのでしょうか。

その本によると、閃くには、どのような分野においても基礎が重要であるそうです。

つまり、基本の型や技の練習または基礎知識のインプットが重要であるそうです。

基礎を習得し、本質を理解することで、良い閃きが生まれるようです。

ただ、基礎の習得は、退屈なこともあるので、適度な「遊び」(=能動的な実践)も必要になるそうです。

また、その本によると、無意識な記憶を意識に昇らせるには、脳内での情報の圧縮つまり情報の整理整頓が必要で、脳内での情報の整理整頓には、睡眠が必要であるそうです。

つまり、閃きには睡眠が重要であるようです。

また、ある課題に対して、試行錯誤し続けることも大切であるようですが、お風呂や散歩または旅行などで少しその課題から離れることで、脳がリラックスすると、良いアイデアが閃くことも多いようです。

まとめ

人間の脳内では、不確実性と言うものを基準にして、逆向きの2つの方向性をもつ欲求・思考が、せめぎ合うため、不確実性は揺(ゆ)らぐそうです。

(揺らぐとは、天秤(てんびん)のような現象でしょうか。)

その「ゆらぎ」が、創造性、つまり、新しい物を生み出す源になるそうです。

もしかすると、創造性の起源の1つには、脳が「飽き」状態を回避する働きが関わっているのかもしれません。

つまり、「飽き」の回避や二項対立の「矛盾」の回避が、新しい物を生み出すことの「きっかけ」になるのかもしれません。

基礎を身に付けた上で、自分自身や他者を飽きさせない様にすることが、創造性に繋がるのかもしれません。

おまけ:陰陽五行との関係

その本によると、創造性は、相反する2つ思考(収束的思考と拡散的思考)のサイクルやバランスによって生み出される不確実性の「ゆらぎ」により説明されます。

陰と陽

それでは、この脳科学的な創造性の説明は、陰陽五行の「陰と陽」の考え方と関係付けられるでしょうか。

(陰陽五行の簡単な説明につきましては、こちらの記事1記事2をご覧頂ければ幸いです。ただ、以下でも簡単なことは説明してありますので、それらを読まなくても大丈夫だと思います。

「陰と陽」の考え方とは、次のようなものです。

「混沌」から生まれた「陰」と「陽」は、基本的には対立した・相反した概念なのですが、

「陰」がその極致に達すると、「陰」の中に「陽」が生まれます。逆に、

「陽」がその極致に達すると、「陽」の中に「陰」が生まれます。

「陰」と「陽」は、常に共存していて、実は通じている・循環しているもので、「陰」と「陽」は完全には分離できません。

ここで、次の対応関係

  • 「混沌(=識別不可能な状態)」=不確実性
  • 「陰」=拡散的思考
  • 「陽」=収束的思考

を想定すれば、その脳科学の説明は「陰と陽」の考え方に関係付けられる様な気がします。

しかし、やはり、「陰」と「陽」では、脳科学的な説明はできないと思います。

なぜなら、拡散的思考を極めても、収束的思考が生まれるとは思えないからです。

反対に、収束的思考を極めても、拡散的思考が生まれるとは思えないからです。

拡散的思考とは、多くのアイディアを生み出すことがその基本であり、一方で、

収束的思考とは、上手いことアイディアを1つにまとめることがその基本です。

従って、脳科学的な創造性の説明は、陰陽五行の「陰と陽」の考え方と対応関係があるとは言えないと思います。

五行の相生(そうせい)・相剋(そうこく)

ただ、陰陽五行の「五行の相生・相剋」の考え方は、脳科学的な創造性の説明と対応関係があるような気がします。

拡散的思考とは、陰陽五行的には「洩星(ろうせい)」の働きだと思います。

洩星」には、表現力、自由、行動、創作、技などの意味がありますが、恐らく「外に何かを洩(も)らす」ことが基本になると思います。つまりは、アウトプット(出力)です。

収束的思考とは、陰陽五行的には「印星」の働きだと思います。

印星」には、勉強、習得、深く考える力、趣味嗜好などの意味がありますが、恐らく「外から何かをもらう(享受する)」ことが基本になると思います。つまりは、インプット(入力)です。

ただ、そのインプットには、知識や情報の整理という意味も含んでいます。

なお、「自星」には、自分の意思、思い、主体性、競争心などの意味があります。

陰陽五行によると、「印星」は「洩星」を剋(こく)します(制御します)。

この剋は、無知に言いたい放題・やりたい放題アウトプットしてもダメで、先人の知識や知恵に基づいてアウトプットすることを促(うなが)すものだと思います。

逆に、バランスによっては「洩星」が「印星」を反剋(はんこく)することもあります。

この反剋は、知識や知恵を溜め込んでいるだけではダメで、それを外に出すことを促すものだと思います。

やはり、創造性には、「印星」と「洩星」のバランスやサイクルが関係しているのだと思います。

陰陽五行的には、「洩星」が創造性(閃き)と関係していると考えられていますが、脳科学の説明に従えば「印星」の働きも大事と言うことになります。

意欲

その本によると、意欲(モチベーション)には、

  • 内発的意欲=内部(自分)から湧き出る意欲(知的好奇心や冒険心など)
  • 外発的意欲=外部から報酬を得るために出る意欲

があるそうです。

ここで、報酬とは、お金、出世、称賛、名誉名声、人気、好評価などのことです。

陰陽五行的には、意欲は、やはり「自星」が関わっているのでしょうか。

「自星」が関わっていると言う見方もあると思いますが、「自星」は自分のことなので敢(あ)えて言う必要がないためか、陰陽五行のある説を参考にすると、

  • 「洩星」と「財星」は、内発的意欲に関わっており、
  • 「官星」と「印星」は、外発的意欲に関わっている

と考えられるようです。なお、

「財星」には、人との交流、経済能力、目的達成的、合理性などの意味があります。

「官星」には、組織、自制心、従う、出世、社会性、責任感などの意味があります。

ただ、「印星」には、知的好奇心のような意味も含まれているので、意欲を、脳科学的な説明に対応するように、陰陽五行で説明するのは難しいのかもしれません