ヨーク研究所
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研究者のなり方

理論系研究者の研究競争

今回は、理論系研究者(特に計算物質科学系研究者)の研究競争について紹介します。

研究者の競争とは

研究者が競争する状況に追い込まれるのは、次の3つだと思います。

  1. 研究における競争(=誰が一番最初にその成果を出したのかと言った研究競争)
  2. 大学や企業などにおける研究職のポスト争い
  3. 研究費を獲得するための競争

今回は、1番目の研究競争について紹介します。

研究競争とライバル

大学の研究者は、今まで誰も報告していない研究成果を出すことを常に要求されています。

誰も取り組んでいないような研究テーマを選択すれば、又はそのような研究課題を考え出せば、他の研究者と研究競争になることはないと思います。

しかし、多くの研究者は、ライバルのいる研究テーマに取り組んでいると思います。

ライバルのいる研究テーマと言うのは、他の研究者も興味・関心のある研究課題であり、いち早くその課題を解決することが望まれている研究であることが多いと思います。

また、誰も取り組んでいないような研究テーマを考え出し、その研究に重要性や学術的意味を与えると言うのは、なかなか難しいことが多く、かなり研究に慣れて来ないとできない、又は、かなりのチャレンジ精神や勇気がないとできないと思います。

という事情もありまして、多くの研究者には、ライバル研究者がいます。

研究競争の例その1(私の場合)

私の研究分野(計算物質科学系分野)は、医学系や薬学系の研究に比べれば、それほど研究競争は激しくないと思います。

ただ、私の分野では、同じ時期に同じような研究成果が発表されることが多いです。

これは恐らく次の事情のためかもしれません。

  • やる研究がある程度決まっている(特に理論・計算法の開発においては)
  • ライバルたちも同じ様なことを考えている(計算の高速化や高精度化など)
  • 論理的に考えれば、次に取り組まなければならない課題が容易に分かる

私も研究競争は経験しています。

私の場合、論文を学術雑誌に投稿し、論文を審査された時に、競争に気付きました。

つまり、私の論文を審査した方が、私よりも3カ月ほど先に同じようなテーマ・内容で論文を発表していました。

もちろん、論文を投稿する前に、関連論文はチェックしていたのですが、その時はその論文の存在に気付きませんでした。ただ、その論文は最新の論文なので、まだ検索に出て来なかったのかもしれません。

結局のところ、先に出たその論文を引用したり、論文を一部修正したりして、私の論文は受理されました。

ちなみに、その論文と私の論文とでは、最終的な数式に至る導出過程が違います。

3カ月ほどの差ですが、やはり一番を取れなかったことは大きいと思います。

実際に、先に出たその論文はかなり引用されていますが、私の論文はあまり引用されていません。ただ、その差には、早く出版されたかどうか以外の質的なこともあると思いますが。

なお、研究の世界では、一般に、他の研究者から自分の論文が多く引用されればされるほど、自分の研究が高く評価されていると言うことになります。

ただ、これには、サイエンスを多数決で評価するべきではないと言う批判もあります。

何はともあれ、はやり研究の世界では、一番最初であることは重要だと思います。二番では駄目なのです。

なお、私の分野では、1~2カ月の差ならば、どちらの研究にも「一番」の称号が与えられている感じがします。「一番」と見なされるかどうかはそれらの論文を引用する人によるところがあります。

研究競争の例その2(ボスの場合)

以下の話は研究室のボスから聞いた話になります。

ボスは面白い計算結果が出たので、権威ある有名な学術雑誌にその結果をまとめた論文を投稿したそうです。

すると、本来は、投稿された論文は、1~2カ月で審査される(受理か修正か不採用かのどれかに決まる)はずなのですが、審査する方が見つからないとか、審査されている方と連絡が取れないとか、何だかんだ理由を付けられて論文の審査が普通よりもだいぶ遅れたそうです。

そうこうしている内に、何んとボスと同じような内容の論文が、ボスの論文よりも早く別の雑誌で発表されてしまったそうです。

なお、その論文は、ボスの論文よりも遅くに別の雑誌に投稿されたようです。

ボスは「恐らく故意にその審査は遅らされたのだろう」と言っていました。

ボスによると、こう言ったことはよくある事のようです。

確かに、有名雑誌での論文の審査は、そのテーマに最も詳しいトップ研究者が受けることが多く、自分の研究と同じような内容の論文が審査に回って来れば、ドッキリすることは間違いないです。

ただ、多くの雑誌では、ライバル研究者による審査を回避できる制度があります。

しかし、誰がライバルになっているのか分からない場合もあるのだと思います。

研究で1番を取るためにすべきこと

それでは、研究において「一番」を取るためにするべきことは何でしょうか。

時間を大切にする

最も単純ですが確実なことは、やはり、時間を大切にすることでしょうか。

実際に、多くの(若手)研究者が時間を大切にしていると思います。

研究者にとって、研究時間を奪われることは耐え難いことだと思いますが、近年、日本では研究者の研究時間が奪われています。

つまり、研究以外の大学の仕事に多くの時間を使わなければならない状況にあります。

確かに、近年の日本の研究力の低下には、研究時間の減少が関係していると思います。

恐らく、難しい研究課題に取り組むためには、まとまった時間と集中力(又は集中できる環境)が必要になるのだと思います。

研究者は常に研究競争の中にいます。常に隙を見せられない状況です。厳しい世界なのです。

独創性の高い研究をする

次に考えられることは、独創性の高い研究をすることでしょうか。

つまり、ライバルの多い研究をするのではなく、誰もやっていないような研究に挑戦してみるチャレンジ精神が必要なのだと思います。

ただ、これは「言うは易く行うは難し」です。特に、若手研究者にとっては、先の見えにくい研究や長期的な視点が必要な研究には手を出しにくい社会的状況があります。

私の分野では、博士課程の研究で、独創性の高い研究をされる方はほとんどいないと思います。

もちろん、博士課程の研究が評価されている方はいらっしゃいますが、それは自分自身の実力や能力と言うよりは指導者のアイディアや「お膳立て」による場合が少なくないです。

はやり、博士号を取って、そこそこ自分で研究できるようにならないと、独創性の高い研究はできないような気がします。