ヨーク研究所
研究者になりたい方に役立つ情報を提供します
研究者のなり方

研究でもその分野の基礎を学んでいる人が強い

今回は、「計算物理系の研究」における「基礎の大切さ」を紹介したいと思います。

研究における基礎とは何か

勉強やスポーツなど色々な分野で、「基礎」と言われるものがありますが、研究においても基礎に当たるものがあると思います。

それでは、研究における基礎とは何でしょうか。

研究分野によっても何が「基礎」になるかは異なると思いますが、私の分野(計算物質科学系)で言うと、基礎とは、基礎理論のことになると思います。

私の分野では、この基礎理論を基に、様々なより高度な理論が開発されています。

ここで、より高度な理論とは、より高精度な理論やより汎用性の高い理論のことです。

ゆえに、研究室に配属されると、4カ月ぐらいかけてまずこの基礎理論を学ぶことになります。

この基礎理論の概要を学ぶことはそんなに難しくはないのですが、細かいところまで理解するには、かなりの数学力が必要になります。

ここで主に使われる数学は、線形代数と微分積分です。

なお、この基礎理論は量子力学に基づいて構築されていますので、量子力学の知識も必要になります。

基礎がなぜ大切なのか

私の分野では、基礎が大切なのは明白で、基礎理論を理解していないと、より高度な新たな理論を開発することができません。

実際に、私の分野では、新しく提案される理論のほとんどが、この基礎理論に基づいて開発されています。

ただ、最初は、4カ月かけて基礎理論を学んでいたとしても、その重要さに気づかないことが多いです。

新たな理論を開発する内に、その重要性に徐々に気が付いて行きます

なお、私の分野で応用計算の方に進む方は、基礎理論の数学的面よりも基礎理論中に出て来る物理量の物理的意味や計算結果の解釈を重点的に学んでいます。

基礎の奥深さ

より高度な理論の開発では、基礎理論を理解しているだけではなく、実際にその基礎理論の計算プログラムを作成できるかが重要になって来ることがあります。

計算プログラムを作成するには、基礎理論の細かい計算つまり多重積分の計算などを理解している必要があります。

私の分野で出て来る多重積分は解析的には計算できないので、数値積分法で計算することになります。

ゆえに、数値積分法も学ぶ必要があります。

さらに、多重積分の計算プログラムを作成する際には、計算の効率性(つまり計算スピード)も考慮して作成する必要があるので、特殊な計算アルゴリズム(計算法)を勉強する必要があります。

さらに、その基礎理論を使った並列計算をしたいならば、並列化のためのプログラミングの勉強も必要になります。

このように、基礎理論と言えども、かなり奥が深く、深い学びが必要になります。

研究における基礎の身に付け方

私の分野では、基礎理論を学び、その実用的な計算プログラムを自分で作成できるようになるまではかなりの時間が必要です(2年ぐらい?)。

ただ、これだけでは論文は書けないので、通常は細かいところまで基礎を学ぶことはないと思います。

通常は基礎の部分に良く分からない部分(ブラックボックスな部分)がありつつも、より高度な新理論の開発を進めます。

確かに、完璧に基礎の部分(つまりその計算プログラム)を理解していなくても、新しい理論や新しい計算法を開発できることも少なくないです。

ただ、やはり高度な新理論を開発しようとすると、何度となく基礎の計算プログラムに戻ってそれを勉強することになると思います。

研究においては、このように必要に応じて、基礎に戻って学ぶことを繰り返しながら、基礎を身に付けて行くことになります。

基礎を学んだ人の利点

基礎を学んだ人は、やはり高度な新理論の開発に強いです。

と言うのは、高度な開発と言えども、基礎的なコトのちょっとした応用であることが多いからです。

ゆえに、基礎的なところ(基礎理論や高次理論における基礎)を押さえている人は、難なくスマートに開発を進められることが多いです。確かに、このような人が研究室に居ると心強いです。

そして、このような人は、知識と知識が結び付いており、研究を真に楽しめるようになっていると思います。

逆に言えば、このような人は、研究をすればするほど、個別の知識と知識が関連付けられて行きます。こうなると、研究が楽しいのも頷(うなず)けます。

また、このような人は、自分の計算プログラムに「良く分かっていない部分」がないことが多く、自信をもってプログラム開発を進めることができます。

逆に、開発中の計算プログラムに「良く分かっていない部分」があると、計算プログラムのバグ取り(=間違い直し)の際などに苦労することがあります。

ただ、私の分野の市販の計算プログラムには多くの研究者の色んな理論が含まれており、一人の人物が細かいところまでそれらを理解するのは難しくなっています。

基礎を疑う研究

勉強やスポーツでは「基礎」を疑うことはあまりないかもしれませんが、研究では、基礎つまり基礎理論を疑い、より良い基礎理論を新たに開発しようとする研究もあります。

この場合でも、全て一から自分で理論や計算プログラムを構築する必要があるため、なかなか大変です。

さらに、現在の基礎理論よりその新たな基礎理論の方が優れていることを一般的に(あらゆるケースに対して)示す必要があるため、成果が認められるまでにはかなりの時間がかかると思います。

なお、私の分野では、新たな基礎理論は色々と提案されていますが、今のところ現在の基礎理論に代わるほどの強力な利点をもつ新理論はまだない感じです。

しかしながら、今後、量子コンピュータが本格的に実用化されれば、量子コンピュータでの計算と相性の良い理論が基礎理論として取って代わる日が来るかもしれません。