ヨーク研究所
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研究者のなり方

理系研究者になる前に知っておいた方が良いこと

Wheatfield

今回は私が「理系研究者になる前に知っておいた方が良かった」と思うことを紹介します。

研究者の生き方

ネットで少し調べるだけでも分かるようになって来ましたが、大学や公的研究所で任期のない研究者(教授や准教授など)になるのは、現在とても難しいです。理由はだいたい次のようなものです。

  • 少子化や国の財政難のために、大学への予算の削減が進んでいる
  • 大学・研究所のポスト数に対して応募者の数(博士号取得者の数)が多い

さらに、任期なしの研究者(教授や准教授)になれたとしても、研究以外の仕事が日本の場合は異常に多く、自分自身で研究する時間を十分にとれないことが多いです。

また、企業で研究職に就いた場合も、40歳位までは研究開発の仕事ができるようですが、多くの場合、40歳位から研究開発の部署から移動したり、管理職になったりして自ら研究することはなくなることが多いようです。

つまり、『 自らの研究に没頭できる時期というのは非常に限られている 』ことをまず自覚する必要があります。

確かに、よくよく考えてみますと、学術的研究(お金に繋がらない研究)を職業にするのはそもそも難しいのです。趣味の世界と言われてしまえば、それまでかもしれません。また、学術的研究に対する価値観というのは、その国の文化に強く依存していると思います。実際に、日本と欧米では文化としての科学に対する価値観にまだまだ差があると思います。

日本の現状を踏まえますと、任期なしの大学教員や公的研究所の研究員にはなれないことを前提に研究者としての人生計画を考えておくのが良いと思います。

つまり、24歳(博士後期課程1年目)から40歳位(任期付き研究員)までが一般に研究に没頭できる時期になりますので、この時期は自分の好きな研究をやって研究を謳歌するのが良いと思います。スポーツ選手と同じ感覚です。

40歳以降は別の仕事に就くことを計画します。運よく大学教員になれればそれでも良いですが、研究以外の仕事に多くの時間を割かなければならないことを強く認識する必要があると思います。現役プレイヤーから監督になる感じです。

40歳位までしか研究しないと決めておけば、色々な束縛から自由になれると思います。例えば、研究室のボスに媚びを売る必要もなくなりますし、学会などで妙に顔を売る必要もないでしょう。論文数稼ぎの興味の薄い研究もしないで済むかもしれません。

研究没頭期

研究に没頭できる時期(24歳ー40歳)を過ごすにあたり、ポイントとなる事項を独断と偏見に基づき述べたいと思います。ただ、理論物理系の研究者向けかもしれません。

ポイントその1は、「自分のやりたい研究テーマが決まっているか」です。30歳位まで受け身ではなく能動的に研究に取り組んでいると、徐々に自分の研究分野で問題・障壁となっている課題が見えてくると思いますので、自分のやりたい・やるべき研究というのは自ずと見つかると思います。なお、流行りの研究テーマを選ぶと、ライバルが多く差が出にくいかもしれませんので、自分の本能に従うのが良いと思います。

ポイントその2は、「自分のやりたい研究をやれるだけの技術・能力が自分にあるか」です。研究者にとって、研究技能はずっと磨いて行かなければならないものだと思います。つまり、強い独学力が必要です。しかしながら、研究技能が不足していると感じたら、必要な研究技能を学べそうな研究室に移る又は修行に行ってみても良いと思います。

ポイントその3は、「自分のやりたい研究ができる研究室を探す」です。現実問題として、ポスドクの立場ですと、自分の好きな研究をするという訳にはいかないかもしれません。自分の好きな研究に近い研究でもとりあえずは良いかもしれません。ボスに信用されれば、自分の好きな研究ができるかもしれないからです。また、そうこうする内に学振PDなどに採用されるかもしれません。

ポイントその4は、「根幹となる研究テーマは変えないで研究を続ける」です。根幹となる研究テーマを次々に変えるのは良くないと思います。真に問題解決ができて、次のテーマに移るのであれば良いのですが、ポスドクの任期が切れて、次の研究室では別のテーマをやるというのは避けたいところです。この研究テーマでは誰にも負けないという強い専門性をもつと良いと思います。

ポイントその5は、「アメリカで自分のやりたい研究をする」です。研究室によるかもしれませんが、日本のポスドクですと、学生の教育・指導などの研究以外の仕事があることが多いです。アメリカのポスドクになると、日本より研究に専念できると思います。また、研究環境もアメリカの方が快適なことが多いと思います。さらに、アメリカは実力主義的で、優れた研究成果を出せばきちんと評価されることが多いです。また、アメリカでの研究経験は40歳以降の仕事を探す際にも有利に働くと思います。なお、研究者として日本に戻ることはできる限り避けるべきだと思います。

自分自身を知る

研究者にとってだけでなく、就職する際など社会で生きて行く上で、自分自身の性格、性質、特性などを医学的・客観的に理解することは非常に大切だと思います。なるべく早い段階で自己理解ができていると、人生の方向性を決め易くなり、結果として人生を豊かなものにできるかもしれません。

従属型 or 独立型?

私の経験から、研究者には、

  • 従属型
  • 独立型

の2タイプがあるように思えます。

従属型の研究者は、基礎学力や社会人としての基礎能力(社会性)が高く、研究室のボスに与えられた課題をそつなくやり遂げることができます。ただ、自ら独創性のある課題を見出したり、標準的な方法以外での解決法を創造することは、苦手だったりします。

独立型の研究者は、人から指図されることを嫌い(自分が主体で研究したい気持ちが強い)、とにかくマイペースで、情熱的に、独創的に研究を進めます。「好きこそ物の上手なれ」と言わんばかりに、それなりの優れた成果を残すことが多いです。ただ、周囲の協力・理解を得ることができず、不遇な時期を過ごすこともあります。

チーム型 or 個人型?

また、研究者を分類するための別の視点は、

  • チームで研究することが好きか(チーム型)
  • 一人で研究することが好きか(個人型)

です。

実験系ですと、必然的にチームで研究することになってしまうことが多いかもしれません。一方、数学や理論系ですと、指導教員を除くと必然的に一人で研究することになってしまうことが多いかもしれません。

ゆえに、チーム型か個人型かという分類は、個人の特性を反映していないかもしれませんが、個人型しか頭にない研究者は分野によっては敬遠されることがあるので要注意です。

例えば、企業研究者の場合は、チームで研究することが多いので、個人型の研究者は敬遠されるかもしれません。一方、アカデミア研究者の場合は、一人で研究することも可能です。

採用されている研究者のタイプ

学問分野(数学、物理学、化学、生物学などの分野)や実験系・理論系で異なると思いますが、私の学問分野では、従属型でチーム型の研究者が最近では大学教員によく採用されています。

ただ、昭和の時代には、私の学問分野でも独立型で個人型の研究者でも大学教員になっていたと思います。

また、大学教員に採用され研究室をもつようになると、個人型からチーム型に変わらずを得ない場合もあると思います。ただ、問題なのは「従属型の研究者が独立型に変わるのは一般的には難しい」ということです。

従属型でチーム型の研究者というのは、研究室のボスにとっては非常に都合の良い人物なのですが、「このような研究者が将来研究室のボスとして世界で戦っていけるか」と問われれば、疑問が残るところです。

一方で、従属型の研究者が多く採用されている学問分野というのは、落ち目(又は安定期)なのかもしれません。逆に、成長期の学問分野では、独立型の研究者が多いのかもしれません。ゆえに、学問分野の成熟度によっても多数派の研究者のタイプというのは変化するのかもしれません。