今回は、研究における直感的思考と論理的思考について考えてみたいと思います。
はじめに
ビジネスの世界では、直感的思考と論理的思考をバランス良く使うことが大切であるようです。
例えば、不確実性の高い状況においては直感的思考で方向性を決定し、後に論理的思考でその方向性を分析・評価したり改善点を提案したりするようです。
研究においても、両方のバランスが大切だと思います。
そこで、研究(特に計算物理系の研究)において、直感的思考と論理的思考がどのように使われているのか具体的に紹介したいと思います。
研究で直感的思考を使う場面
研究では、直感的思考よりも論理的思考を使うイメージがありますが、直感的思考を使うこともあります。
そこでまず、直感的思考を使う場面を紹介して行きたいと思います。
1) 研究の種を見つける時
例えば、研究テーマを決める時がそうだと思います。
「何か面白そう」と思うことから、テーマ選びが始まると思います。
学生の内は、指導教員からテーマを提案されることが多いと思いますが、独立した研究者になると自分でテーマを決めることになります。
自分のこれまでの研究経験や興味から、研究の方向性(細かい研究分野)を決め、その分野の最近の動向(何が解明されていて何が解明されていないのか)などを調べて行く内に、何か「研究の種のようなもの」を見つけることもあると思います。
「研究の種のようなもの」を見つけることができれば、後は論理的思考でどんどん掘り下げて行くことになります。
掘り下げても何も出て来ないこともありますが、何か「面白いもの」が出て来ることもあります。
「面白いもの」が出て来たならば、それを丁寧に育てて行く(研究をさらに深めて行く)ことになります。
このような研究プロセスにおいて、「研究の種のようなもの」を見つけることができるかどうかは、やはり研究者の直感的思考つまり直感や勘またはセンスによるところが大きいと思います。
余談になりますが、研究テーマの選択には当たり外れがあると思います。
そのテーマが上手くその分野の時流に乗れば、それほど良い成果が出ていなくても注目されることもありますし、逆に、良い成果が出ていても、研究者達の関心が薄れて行っているテーマでは、あまり注目されないこともあります。
2) 研究で試行錯誤する時
研究を続けていると、理論的に証明できた訳ではないけれど、何となく見えて来ること又は何となく予想が立つことがあります。
「これはこう言うことなのではないか」や「こうすれば上手く行くのではないか」と言った予想や仮説のようなものが閃(ひらめ)いた時というのは、直感的思考を使っているのだと思います。
研究中の試行錯誤には、直感的思考による場合と論理的思考による場合があると思います。
もちろん、両方による場合もあると思います。
ただ、独創性が強い研究と呼ばれるものは、直感的思考に基づいて生み出されたものが多いのではないかと予想されます。
直感的思考は、客観的というよりは主観的なので、誰もができる思考・発想であるとは限らないことが少なくないと思います。
ゆえに、直感的思考に基づいて成果を出した研究は、独創性が高くなるのだと思います。
ちなみに、研究においては何となく思い付いてはいたが、固定観念や先入観または「思い込み」などから、実際に実行するには至らなかったアイディアもあると思います。
ライバル研究者にそのアイディアを実行されてしまってから、やっとそのアイディアの真の価値に気が付くということもあると思います。
余談:ピンチがチャンス
直感的思考で何となく思い付いたことがいつも正しい訳ではないと思いますが、何んとかなると思っていたことが実際に数学的にも何とかなってしまうことが理論系の研究ではあります。
例えば、論文を学術雑誌に投稿すると審査(査読)を受けますが、審査員(査読者)から厳しいコメントが返って来ることがあります。
思ってもみなかった厳しい指摘(致命的な指摘)なので、しばらくの間、困って悩むことになります。
ああだこうだと部分的な又は表面的な修正を検討してもダメな場合は、自分の理論(計算法)を一から見直すことになります。
根本や本質に立ち返ってしばらく考えていると、何んとか解決法が浮かぶことがあります。
そして、最終的には、その厳しい指摘のおかげで、自分の理論がより強固なもの(理論の穴が塞(ふさ)がれ完成されたもの)になってしまうことがあります。
研究で論理的思考を使う場面
次に、計算物理系の研究で論理的思考を使う場面を紹介したいと思いますが、殆どあらゆる場面で論理的思考を使っていると思います。
1) 研究テーマを決める時にも使います
例えば、ある計算法を開発したので、この計算法と既存の計算法を組み合わせれば、より汎用性の高い計算法を開発できるはずだと考えて研究テーマを決めることがあります。
2) 論文を読んだり、書いたりする時にも使います
世界的に有名な教授が書いた理論系の論文でも、致命的な間違いが含まれていることがよくあります。
ゆえに、論理的思考で1つ1つ数式や論理をチェックしながら論文を読むことになります。
一方で、論文を書く際は、論理の飛躍や論理的な抜け(詰めの甘さ)がないように気を付けます。
3) 計算プログラムを作る際にも使います
論理的思考で無駄のない効率的な計算プログラムを作成します。
非効率な計算プログラムでは、計算スピードが落ちてしまいます。
ただ、基礎的な研究では計算スピードは気にしないこともあります。
4) 開発中の計算プログラムのバグ(=間違い)を見つけ出す際にも使います
一発でバグのない計算プログラムを書ける人はほとんどいないと思います。
ゆえに、論理的思考で、バグを見つけ出すことになりますが、「思い込み」などがあるのでなかなか大変です。
バグ取りには経験や勘も役立つことが多いです。
5) 面白い結果が得られた原因・理由を説明する際にも使います
面白い結果が得られた場合は、なぜそのような結果が得られたのか、その原因や理由を調べます。
その結果として、原因や理由がはっきりすることもありますが、いまいち明確にならないこともあります。
いまいち明確にならない時こそ論理的思考を使いますが、仮定や仮説を立てることで何とかその原因や理由を説明してしまうこともあります。
なお、そもそも面白い結果かどうか判断する際にも論理的思考が使われます。その分野のデータや常識から外れた結果が面白い結果であると考えられることが多いようです。
6) 理論や研究の整合性(=矛盾がないこと)や一貫性をチェックする際にも使います
好奇心や探求心に従って研究をどんどん進めていると、研究の目的を見失ってしまうこともあります。
つまり、本来の研究目的とはズレてしまっていたり、本末転倒なことを必死に進めていることがあります。
そのような場合は、蓄積した研究を一旦整理する必要があると思います。その際に、論理的思考が役に立ちます。
また、思い付いたアイディアを数式で表し理論にする場合は、その理論の全体的な整合性や一貫性が保たれている必要があります。
この場合も、整合性や一貫性が保たれているかどうかは論理的思考でしっかりチェックします。
直感的思考に基づく研究はワクワクする
コンサルタント業界で言われていることですが、論理的思考は合理的ではあるようですが、人をワクワクさせたりすることは苦手なようです。
つまり、ビジネスの世界では、論理的で理屈がしっかりしている提案でも、何となく気が進まない又は何となく納得できないという理由で見送られてしまうこともあるそうです。
論理や理屈が完璧でも、人の心を動かすことはできないということの様です。
確かに、研究でも、論理的思考のみで提案された研究は、やや面白みがないように感じることがあります。
つまり、誰がやっても同じような結果・結論が出ることが予測される研究は、魅力的とは考えられないことが多いです。
例えば、先ほど述べたような論理的思考つまり「組み合わせ的思考」で決めらた研究テーマは、成果が出やすいのですが、段々と研究に慣れて来るとやや平凡に感じることもあります。
ただ、学生や若手研究者にとっては研究の基礎を学ぶこともでき良いテーマかもしれません。また、組み合わせることが難題であるような研究もあるので、一概に平凡とは言えません。
一方で、論理的思考だけでなく、論理的思考では辿り着けない視点やアイディアが含まれている研究は、俄然(がぜん)魅力的に見えます。
「なんでそんなことを思い付いたのですか」と問いたくなるような研究は、しばしば研究者をワクワクさせます。
そして、研究者をワクワクさせる研究は、実際に良い成果に繋(つな)がることが多いと思います。
研究者の良い予感
ちなみに、計算物理系の研究者が、研究をしていて何となく良い予感がする時(または研究の種のようなものを感じる時)というは、次の場合かもしれません。
- 何となく「あること」と「あること」が繋がりそうな時
- 何となく「あること」と「あること」の間に類似性を見出せそうな時
- 何となく「ある理論」と「ある理論」が統一できそうな時
- 特殊なことだと思っていたことが一般化できそうな時
- ある方法が別の方法にも拡張できそうな時
- 研究対象の本質が解明できそうな時
- 最終的にシンプルな数式に辿り着きそうな時
- 何となく「美しさ」や「鮮(あざ)やかさ」を感じる時
異なる物の中に「繋がり」を見出すというのが、研究者にとっての1つの楽しみなのかもしれません。
さらに、数少ない本質的な事柄で多くの現象が説明できること又は多くの問題が解決できることが、研究者には嬉しいのかもしれません。
このような性質のためか、研究者はとにかく頭の中で物事を繋げようとする傾向があるような気がします。
研究での直感的思考を鍛えるには
次に、研究における直感的思考の鍛え方を考えてみたいと思います。
そもそも「研究における直感的思考を鍛えられるのか」又は「鍛える必要があるのか」という疑問があるかもしれません。
あくまで論理的思考を重視したいと考えている方もいらっしゃると思います。
確かに、研究における直感的思考とは、いわゆる「センス」や「才能」または「閃(ひらめ)き」と呼ばれているものに近いかもしれません。
ゆえに、このようなものは生まれ持ったもので、鍛えることは難しいことが多いかもしれません。
しかしながら、ここで私は「研究室を選ぶなら一流の研究室を選ぶべき」というしばしば言われている言葉を思い出しました。
なぜ一流の研究室が良いのか、もしかしたら直感的思考を磨くためなのではないかと思いました。
論理的思考は比較的どの研究室でも鍛えられると思いますが、直感的思考はどうなのでしょうか。
ただ、確かに、一流の研究室に所属している全てのメンバーが、優れた直感的思考を身に付けられる訳ではないと思います。
なお、研究における直感的思考は
- 研究経験(失敗経験や成功経験など)
- ある問題に対して考え続けること
- 学習経験
- こだわり・美学・信念・思想
などによって自然と生み出されるものであるようです。(そして、直感的思考は突然生み出されることも多いので、メモを取ることが大切なようです。)
結局のところ、どのようにすれば直感的思考を鍛えられるのかはよく分かりませんが、私としては、自分のやりたい研究を納得できるまでやるのが一番良いのではないかと思います。
ただ、学生や若手研究者にとっては、意外とこれが難しいことが多いかもしれません。